役者へのリクエストは"何もしないでください" 『俳優 亀岡拓次』横浜聡子監督(3/4)
“自分の色を出さず、目の前の状況に合わせて最善を尽くす”。シンプルですが、かなり難しい。これを淡々と続けられる『俳優 亀岡拓次』のスゴさをあらためて実感した前回のインタビュー。今回は、ちょっとストーリーから離れて横濱監督の演出論や、撮影現場でのエピソードについてお話を伺いました。
■役者に求めたのは“何もしないで欲しい”
―――亀岡という「俳優」の役を演じる安田顕さんには、どんな演技を求めました?
こういう言い方はなんですけど、基本的には何もして欲しくない、できるだけ何もしないで欲しいということは思っていました。
―――何もするなとは?
1人の人間として、その場に立っているだけでいいなと思ったんです。人間は、カメラを向けられると、どうしても普段とは違う自分になるので。当たり前なんですけど。だから今回の“俳優の役”というのは、カメラが向いていないときの自分を表現してもらうことが大事でした。
―――“素”でいてくれということですか?
“素”っていう言い方はとても乱暴なんですけど。ただ、演技の中に、何か意図的なものを感じたときは、“何もしないでください”とお願いしました。
■準備が倍だった撮影現場
―――役者の方にとっては、大変そうなリクエストですね
俳優さんにとっては“何もしないで”っていうのはやりにくいと思います。お芝居するために撮影現場に来ているわけですから。とても困ると思います。まあ本当のところは俳優さんにしかわからないですけど。
―――映画製作の舞台裏を描いた物語は監督として作りやすいものですか?
もちろん、“医療現場の作品を撮ってください”と言われるよりは、撮影現場の雰囲気を知っているので、想像はしやすいです。でも、映画の撮影現場を新たにもう一つ作らなきゃいけないので大変でした。本物のスタッフや出演者とは別に、スタッフ役、演者役と、倍の数を用意しなきゃいけないですから。
―――それは想像しただけでも大変そうですね
映画の中で映画をやるのは相当、大がかりなことでした。
■外国人俳優のハプニング
―――作品の中には監督がこれまで経験した「撮影現場あるある」なども入っているんですか?
途中のシーンで、セリフを全く覚えて来ないフィリピン人の女の子が出てくるんですけど…アラン・スペッソ監督役のメキシコ人の俳優さんが、セリフを覚え切れなくて、助監督と通訳のかたと撮影直前まで猛練習していたということはありました。アドリブで喋ってもらうわけにもいかなくて。
―――確かに作品を見返したとき“言ってること違うじゃん”ってなったら困りますもんね
そうなんです。セリフはスペイン語なので、正しいのかどうかその場で判断できない。ご本人がちゃんと言えてるかどうか、アドリブを混ぜたりしていないか…けっこう長いセリフでしたから確認作業もなかなか大変でした。
―――他の現場でもそういうことはよくあるんですか?
そんなにはないと思いますが…でも、事前にセリフを頭に入れてくるのが当たり前と思っていたので。それが外国人の方だとそういう感覚でもないのかなと。今回やってみて初めてわかりました(笑)
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■「俳優 亀岡拓次」情報
*1月30日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:横浜聡子
原作:戌井昭人「俳優・亀岡拓次」(フォイル刊)
出演:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太、浅香航大、杉田かおる、工藤夕貴、三田佳子、山﨑努
音楽:大友良英
協力:文藝春秋(「俳優・亀岡拓次」文春文庫刊/「のろい男 俳優・亀岡拓次」文藝春秋刊)
製作:『俳優 亀岡拓次』製作委員会
配給:日活
公式サイト:http://kametaku.com/
(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会