原爆シーンをあれほど細かく表現している映像はない 『母と暮せば』企画:井上麻矢さん(2/4)
作品誕生までの経緯についてお聞きした前回のインタビュー。そこには井上さんと山田監督の間に生まれた強い信頼関係も見られました。2回目となる今回は…映像化において山田監督が特にこだわったというシーンについてお聞きしました。
■父・井上ひさしと語らうようにストーリーを作り上げる山田監督
———具体的に脚本を作る段階で、山田監督はどんな様子でしたか?
長崎が舞台で原爆が登場すると、原発問題とか核とか戦争責任ばかりが注目されがちなんですよね。どうしてもそうなってしまう。長崎を描くこと自体はとても難しいことなんですよね。でも、監督はそういったことに捕われない様子で物語を作られましたね。
———井上ひさしさんも構想の段階で『長崎』が持つ事情に苦慮されていたんですか?
おそらく…。だから父もなかなか描けずに完成しなかったのではと思います。ただ、山田監督はそこをヒョイッと見事に超越してしまって、きちんと親子の話として描いてくださったんですよね。ごく普通の、本当にどの親子にも当てはまるような姿で。
———重いテーマの中で純粋に親子の話として描けるのはさすがですね
そのおかげで、若い人たちも含めていろんな世代の人たちに支持されるものになったと思います。あと、嬉しかったのは山田監督が私によく「こういうとき、井上ひさしさんだったらどういう表現にするだろうね?」とか「『父と暮せば』では、どんなセリフにしてたかな?」と、まるで父と語らいながら一緒に作り上げてくれてるところでした。
―――染みる話ですね
それで私もどんどん嬉しくなって・・・。自分も山田組の一員のような気持ちでした。
■山田洋次監督が最後までこだわった“原爆投下シーン”
———ストーリーもそうですが、今回は映像にもかなりこだわったそうですね
はい、序盤で原爆が投下されて爆発するシーンで、当事者目線の映像が出てくるんですけど…。そこを監督はかなりこだわられていましたね。本当にギリギリまで納得せずに作り込んでいたと聞きました。
———原爆を扱った映像作品の中でも群を抜いて、かなりリアリティある衝撃的な映像でした
時間にするとほんの10秒ぐらいのシーンなんですけど…。ものすごい爆風、粉塵で、光で、何が何だか全くわからないほどの爆発というのをすごく上手く表現されてるなと思います。あそこまで原爆のシーンを細かく表現している映像はないんじゃないでしょうか。
———あのシーンはどうやって作り上げたんでしょうか?
もちろん監督の感覚というところもあると思いますが、爆発による壊れ方、物の飛ぶ角度などを科学的にいろいろ計算されたみたいです。あのシーンは活字や演劇では表現できない、映像だから表現できる“本当に一瞬で全てが終わってしまう恐怖”だと思いますね。いくらすさまじい爆発でも、それを口頭で聞いてもなかなかわからないじゃないですか。それが一瞬で伝わると思いますよ!ぜひ見ていただきたいです。
(1/4)『母と暮せば』企画 井上麻矢さん 山田洋次監督から「泉として見守って欲しい」と言われました
(2/4)『母と暮せば』企画 井上麻矢さん 原爆シーンをあれほど細かく表現している映像はない
■「母と暮せば」公開情報
*2015年2015年12月12日(土)~全国ロードショー~
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
音楽:坂本龍一
出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一
配給:松竹
公式サイト:http://hahatokuraseba.jp/