山田洋次監督から「泉として見守って欲しい」と言われました 『母と暮せば』企画:井上麻矢さん
松竹120周年記念映画として、山田洋次監督のもと吉永小百合さんや二宮和也さんなど豪華な俳優陣が集結!終戦間もない長崎を舞台に原爆で命を落とした息子と残された母との対話を描いた『母と暮せば』が、いま広い世代の心を掴んでいます。
今回のインタビューは…その物語を構想した井上ひさしさんの娘であり、井上ひさしさんに関係する作品を上演する舞台制作集団「こまつ座」の代表:井上麻矢さん! この映画の「企画者」というキーパーソン中のキーパーソン。第1回目のインタビューとなる今回はまず…どういった経緯でこの作品が誕生に至ったのか、お聞きしました!
■もともとは「こまつ座」のために構想された演劇作品だった
———映画「母と暮せば」はどのようにして誕生したんですか?
わたしたちは「こまつ座」という劇団なんですけど、実はそもそも「母と暮せば」は、こまつ座でやろうとしていた作品だったんです。父である井上ひさしが、「こまつ座」を経済的に安定させたいという想いがあったみたいで、以前書いた「父と暮せば」という作品と、対となるものとして企画を起ち上げたんです。
———それが何故、映画という形で世の中に出ることに?
父が亡くなったため、企画もずっと宙ぶらりんのままだったんです。でも、なんとか成就させたいとは思っていました。そんな中、ちょうど松竹のプロデューサーさんとお話する機会があって、“いま松竹120周年、戦後70周年というタイミングにふさわしい作品を探している”と言われて、この作品の話をしたんです。
———そこで映画の話になったんですね
はい。その後、山田監督ともお話しさせて頂いて、じゃあやろうと仰って頂いたので、具体的に映画化の話が進んでいきました。
———山田洋次監督と井上ひさしさんといえば名作『キネマの天地』以来のタッグということになりますね!
©2015「母と暮せば」製作委員会
■映画の世界の人に企画は取られちゃいけないと思っていたけれど…
———映画作りに入る段階で、作品はどのくらいまで出来ていたのですか?
正直、プロットなどもなかったですね。設定というか…「母親と誰かの話」というぐらいで。例えば…体内被爆したお母さんと子どもの話とか…そういういくつかの案があって、けっこう漠然としていました。
———そこからどう練り上げていったんですか?
練り上げたというよりも、監督の頭の中では、最初から物語が見えているようでした。長崎が舞台で母親が主人公の話なんですが…とお話したら、すぐに「主演は吉永さんが良いですね。息子は法律家か医学生かなぁ」って。そこからの展開はもう、監督の口からどんどん出てきて…それを聞いていたら、私ももうすっかりその映画を見たくなりました(笑)。
———すごいイメージ力ですね
演劇の世界の人って、どこか、映画の世界の人に企画は取られちゃいけない、大事にしたいって思いが少なからずあるんですけど…ここまでこの話を立体化してくれる監督なら間違いないと思いました。まさにやっとこの物語を完成してくださる方が現れたと心が震えました。そこで監督にはあらためて“お願いします”と頭を下げました。「もちろん」と御返事を頂きました。
■山田洋次監督から「泉として見守って欲しい」と言われました
———その後、企画者として制作ではどのように関わられたんですか?
あんまり何か特別なことを言うことはしなかったんですけど、監督からは「泉」としていて見守って欲しいと言われました。源泉のようにいて欲しいと。
———泉? どういうことですか?
父がこの作品で伝えたかった想いやエッセンスなど、おおもとの部分の『柱』として作品を見守って欲しいということでした。どんなに大きな川でも、元をたどれば、山奥にある小さな源泉なんだと。
———なるほど。いわば井上ひさしイズムの観点で、チェックして欲しいってことなんですね
その言葉を聞いて逆に監督にすべてお任せしようと思いました。あらためて企画者というのは、“この人なら”という才能と忍耐と愛情のある人を見つけて、あとはその人を信じて託すというのが本懐なのかなと思いました。
(1/4)『母と暮せば』企画 井上麻矢さん 山田洋次監督から「泉として見守って欲しい」と言われました
(2/4)『母と暮せば』企画 井上麻矢さん 原爆シーンをあれほど細かく表現している映像はない
■「母と暮せば」公開情報
*2015年2015年12月12日(土)全国公開中
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
音楽:坂本龍一
出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一
配給:松竹
公式サイト:http://hahatokuraseba.jp/